3Dプリントのデータ入稿|塗装・仕上げまで頼むときの注意点

3Dプリントを外注するとき、最初につまずくのは価格でも納期でもなく、たいていデータです。見積りを依頼したら「このデータでは造形できません」と返ってきた。出力はできたが、届いたものが想像と違った。塗装まで頼んだら、組み立ての段階で部品が入らなくなった。

入稿でつまずくと、削られるのは費用より先に時間です。差し戻しのたびに数日が消え、展示会や発表の日程だけが近づいてきます。

この記事では、3Dプリントのデータ入稿について、形式の選び方と差し戻しの原因を整理します。そのうえで、もうひとつ踏み込みます。出力したあとに塗装・仕上げまで依頼する場合、データの段階で何が変わるのか。出力だけを請け負う会社の解説にはあまり出てこない論点ですが、実務では、ここを外すと最後の組み立てで困ります。

画面に表示した3Dデータと、机上の出力品を見比べているところ
目次

3Dプリントのデータ入稿とは

データ入稿とは、造形してほしい形状を3Dデータの形で渡す工程のことです。見積りの前提になるため、発注の流れのほぼ最初に来ます。

ここで渡しているのは「形状」だけです。どこを何ミリの精度で守りたいのか、どの面が正面なのか、最終的にどんな質感に仕上げたいのか——こうした情報は、データの中に入っていません。だから、データと一緒に言葉で渡す必要があります。やりとりが増えてしまう案件は、たいていこの「データに書けない情報」が抜け落ちています。

入稿できるデータ形式と、どれを送るか

3Dプリントの入稿でよく使われる形式は、持っている情報の量で性格が分かれます。

形式持っている情報向いている渡し方
STL三角形メッシュの形状のみ。寸法・単位・色を持たない造形するだけなら最も確実。迷ったらこれ
STEP/IGES曲面と寸法をそのまま保持。CADで編集できる形状の修正が出そうなとき。併送しておくと手戻りが早い
OBJ形状に加えて色・テクスチャ(別ファイルに依存)フルカラー造形や、見た目の共有

株式会社エムズでは、STL・STEP・OBJ・IGES を対応データとして挙げています。

STLは「三角形で近似した形」である

STLには曲面がそのまま入っていません。小さな三角形の集合に置き換えられています。書き出すときの精度設定(サグ値・許容差)が粗いと、滑らかなはずの曲面が多角形のカクカクした面として造形されます。出力サービス各社の解説では、一般的な造形で0.05〜0.1mm、高精細を狙うなら0.01〜0.02mm程度が目安として示されています。

この設定は造形側では直せません。粗いSTLからは粗い造形物しか出てこないため、書き出しの段階で決まってしまいます。

STEPを一緒に送っておくと、差し戻しが早く済む

肉が薄い、抜き穴がない、この部分は造形できない——こうした指摘を受けたとき、STLのままでは直しようがありません。STEPやIGESを併せて渡しておけば、造形側と相談しながらその場で形状を直せます。保険として同梱しておく価値があります。

差し戻しになる3つの原因

1. データとして閉じていない。面と面の間に隙間がある、ひとつに見えて複数のかたまりに分かれている、面の裏表(法線)が揃っていない。画面上の見た目では分かりませんが、造形機は「どこが中身か」を判定できずに止まります。

2. そもそも造形できない形状。装置の造形範囲を超えている、肉が薄すぎて自立しない、サポート材を取り出せない袋状になっている、細部が装置の分解能より細かい。これらはデータが正しくても造形が通りません。

3. 造形はできたが、想像と違った。これはデータのエラーではありません。造形方式・造形方向・材料の性質による差です。埋めるべきはデータではなく、事前の擦り合わせになります。

あわせて多いのが単位とスケールのずれです。ミリのつもりで作ったデータがインチとして解釈され、桁違いの大きさで出てくる。防ぎ方は単純で、「この穴の直径は20mmです」と基準になる寸法をひとつ書き添えておくだけで足ります。

3Dプリントで製作したパーツの作例

塗装・仕上げまで頼むなら、データ段階で変わること

ここからが本題です。出力したものに研磨と塗装が入るなら、入稿データに求められるものが変わります。造形できるデータと、仕上げられるデータは、同じではありません。

1. 塗膜のぶんだけ、寸法は増える

塗装は、表面に層を重ねる工程です。下地・色・クリアと重ねれば、面はその厚みぶん外側に出ます。嵌合する部分、差し込む部分、ねじが通る穴は、塗装後の寸法で成立するかどうかを先に見ておく必要があります。「出力品では入ったのに、塗ったら入らない」は、ここを詰めていないときに起きます。

どれだけ増えるかは、塗る回数と工程によって変わります。数値を決め打ちせず、守りたい寸法がどこかを先に伝えて、塗装側で逃がし方を設計してもらうのが確実です。

2. エッジは、丸めるか立てるかを決めておく

研磨をかければ角は丸まります。塗膜も、角の上では薄くなります。シャープに見せたいエッジと、人が触れるので落としておきたいエッジは、意図を分けて伝えておくほうが安全です。エムズは、塗装の厚みやエッジの立ち方を考慮した「仕上げありき」のデータ補正を行うと明示しています。

3. 塗らない面を決めておく

ねじ山、軸の受け、電極、はめ合い面。塗ってはいけない場所があるなら、そこをマスキングできる形状になっているかを先に確認します。塗装の都合で、わずかな段差や逃げを足せると作業が成立することもあります。

4. 分割と接合の位置は、見せ場を避ける

大きなものは分割して出力し、接いでから仕上げます。接合線は塗装で消せますが、消しやすい位置と消しにくい位置があります。目立つ曲面の真ん中に線を置くより、稜線や陰になる位置へ寄せるほうが、仕上がりは安定します。分割を造形側に任せきりにせず、「ここに線を出したくない」とだけ伝えておくと効きます。

5. 彫り込んだ文字やロゴは、埋まることがある

細い溝は塗膜で浅くなります。残したい線幅と深さは、塗装を前提にして決める必要があります。逆に、塗り分けで見せるつもりなら、溝ではなく面の切り替えとして作っておくほうが確実です。

6. どの面が「正面」かを伝える

光沢で仕上げる面は、下地の粗がいちばん出る面でもあります。どこが正面なのかが分かっていれば、造形方向と研磨の手のかけ方をそこに寄せられます。何も伝えないまま出せば、全面を平均的に仕上げることになり、見せたい面にだけ時間を使うという判断ができません。

エムズの3Dプリントが効く場面

エムズは、造形方式として大型LCD方式(光造形)を挙げ、積層痕を抑えた造形によって塗装前の研磨工程を短縮することを強みとしています。仕上げオプションとして、サポート材除去・下地研磨・特殊塗装(銀鏡・意匠塗装)を挙げており、出力から塗装までを一社で見る前提の体制です。

発注する側から見て、この性格が効いてくるのは次のような場面です。

塗装の仕上がりで評価される案件のとき。展示用のモデルやアート作品のように、最後に見られるのが表面である場合、造形の良し悪しは研磨と塗装の手間に直結します。出力側が塗装の工程を知っていれば、造形の段階で次工程が楽になる方向へ寄せられます。

大きいものを作るとき。最大造形サイズは高さ550mm、分割接合によりメートル単位の大型造形にも対応すると記載されています。分割して出力し、接いで、仕上げるところまでが同じ会社の中で完結します。

データが揃っていない段階のとき。対応データとして STL・STEP・OBJ・IGES が挙げられているほか、2D図面やラフからのデータ化にも対応するとされています。手書きのスケッチしかない段階からでも、相談の入口になります。

素材の性質で選びたいとき。対応素材として、高靭性レジン、耐熱レジン、透明樹脂、ゴムライクレジンなどが挙げられています。用途によって、割れにくさを取るのか、熱に耐えることを取るのかは変わります。

向いている場面、向いていない場面

3Dプリント+塗装という進め方が向いているのは、次のような案件です。

  • 数が少ない。1点から数十点程度で、金型を起こす段階にない
  • 形状が複雑で、切削や成形では作りにくい
  • 最終的な見た目の質感が評価の対象になる(展示品、コンセプトモデル、アート作品)
  • 日程が短く、形になったものを早く見たい

一方、次のような条件では別の方法を検討したほうがよい場面があります。

  • 同じ形を何千個も作る。数が増えるほど、成形のほうが1個あたりは下がります
  • 機械的な強度や耐久性が最優先で、材料の特性から決めたい
  • 高温や薬品にさらされ続ける環境で使う。材料と塗装の両方で制約が出ます
  • ミクロン単位の寸法精度が仕様として決まっている。造形方式の特性と塗膜の両方が効いてきます

発注するときに決めておくこと

データを送る前に次の5つを決めておくと、差し戻しとサンプルのやり直しが目に見えて減ります。

1. 用途と「見せる面」。何に使うもので、誰がどこから見るのか。正面が決まれば、造形方向も研磨の配分も決まります。

2. 守りたい寸法と、それが塗装前か塗装後か。すべての寸法を厳しくする必要はありません。嵌合部、取り付け穴、見付け寸法など、崩れると困る場所だけを指定します。

3. 仕上げの方向と基準。艶あり・半艶・マット、色、質感。言葉だけで合わせようとすると往復が増えます。現物のサンプルや、色番号、近い質感の製品があれば、渡してしまうのがいちばん早い方法です。

4. サイズと、分割してよいかどうか。一体でなければならないのか、接合線が出てもよいのか。許容できるなら、作れるサイズの幅が大きく広がります。

5. 日程と、どこで判断を挟むか。造形が上がった時点で一度見るのか、塗装まで進めてから見るのか。中間で確認を入れると、後戻りの幅が小さくなります。

ノギスと測定具で部品の寸法を確認している手元

よくある質問

Q. 結局、どの形式で送ればいいですか。

造形だけならSTLが最も確実です。形状の修正が発生しそうな案件では、STLとSTEPの両方を送っておくと、指摘を受けたときの戻りが早くなります。エムズではSTL・STEP・OBJ・IGESに対応しています。

Q. 3Dデータがありません。図面や写真、現物しかない状態でも頼めますか。

対応データの項目に、2D図面やラフからのデータ化にも対応すると記載されています。手書きのイメージしかない段階でも相談の入口になります。ただし、データ化の工数と日程は形状によって変わるため、早めに現物や図面を見せるほど見積りが固まります。

Q. 1個だけの試作でも依頼できますか。

3Dプリントは、金型を必要としないため少量に向いた工法です。エムズは複雑形状のアート・オブジェ製作、産業用プロトタイプ、特注パーツや治具の製作を代表的な活用シーンとして挙げています。

Q. どのくらいの大きさまで作れますか。

最大造形サイズは高さ550mm、分割接合によってメートル単位の大型造形にも対応すると記載されています。分割が許容できるかどうかで、取りうるサイズが変わります。

Q. 塗装すると寸法はどのくらい変わりますか。

一律の数値はお答えできません。重ねる層の数と工程によって変わるためです。確実なのは、守りたい寸法がどこかを先に伝えておくことです。そこを基準にして、塗装側で逃がし方を設計できます。

まとめ

3Dプリントのデータ入稿でつまずく原因は、形式の選択、メッシュの不整合、単位のずれ、そして造形できない形状——この4つにほぼ集約されます。STLで造形し、STEPを保険として添える。基準寸法をひとつ書き添える。これだけで差し戻しの多くは防げます。

そして、塗装・仕上げまで頼むなら、そこにもう一段あります。塗膜のぶんの寸法、エッジの扱い、塗らない面、分割線の位置、彫り込みの深さ、見せたい面。どれもデータの中には書かれていない情報で、出力と塗装の両方を見ている相手にしか詰められない部分です。

エムズでは、3Dプリントと造形塗装を一社で担い、仕上げを前提としたデータの補正から対応しています。データがまだ固まっていない段階、手書きのラフしかない段階でも構いません。お問い合わせからご相談ください。

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