店舗の什器は、見られるためにあります。
商品を置くという役割だけなら、仕上げは何でも構いません。しかし実際には、什器はブランドの世界観を支える装置です。来店した人は、商品を見る前に什器を見ています。その表面が安っぽければ、そこに載っている商品まで安く見えてしまいます。
にもかかわらず、什器の仕上げは図面に書きにくいものです。寸法は数値で指定できますが、「もう少し重厚に」「安っぽく光らせたくない」といった要望は、言葉のままでは工場に渡せません。
この記事では、什器の塗装仕上げについて、素材ごとに何が起きるのかと、店舗という環境ならではの条件を整理します。什器の解説は木工を前提にしたものが多いのですが、実際の什器には樹脂も金属もFRPも混ざります。そこを含めて見ていきます。

什器の仕上げは「素材」ではなく「見られ方」から決まる
仕上げを決めるとき、素材から入ると迷います。先に決めるべきは、どこから、どのくらいの距離で、どんな光の下で見られるかです。
| 見られ方 | 求められるもの |
|---|---|
| 店外から、歩きながら | 遠目の存在感。反射と陰影 |
| 店内で、数メートル離れて | 面のつながり。色の均一さ |
| 至近距離、商品と一緒に | 肌理の細かさ。手で触れたときの感触 |
| 写真に撮られる | 映り込みの質。白飛びしないつや |
同じ什器でも、エントランスのロゴオブジェと、ジュエリーを載せるトレイでは、詰めるべき点がまったく違います。遠目で効くのは反射とシルエット、至近距離で効くのは肌理と均一さです。
スポットライトが当たる前提かどうかも大きな要素です。強い光が当たる面は、わずかな歪みも影として出ます。高光沢に振るほど、下地の精度が問われます。
素材別に何が起きるか
什器に使われる素材はひとつではありません。それぞれ、塗装の前にやるべきことが違います。
木・MDF・合板。 吸い込みがあり、木口は特に吸います。目止めと下地づくりをどこまでやるかで、仕上がりの平滑さが決まります。湿度で動くため、広い面では経年の割れに配慮が要ります。
金属。 油分の除去と、塗料を密着させるための下地処理が前提になります。溶接の跡をどこまで消すかは、意匠面かどうかで判断が分かれます。
樹脂。 種類によって塗料の乗りが大きく変わります。熱で変形しやすいものもあり、乾燥の条件に制約が出ることがあります。
FRP。 大型の造形物でよく使われます。表面に細かな気泡が残っていることがあり、下地で埋める工程が必要になります。
発泡素材。 軽く、大きなものをつくれますが、溶剤で溶けます。表面を硬い層で覆ってから塗るという、二段構えの工程になります。
ひとつの什器に複数の素材が混ざるときの難しさ
ここが、什器の仕上げでいちばん難しい部分です。
骨格は金属、天板は木、装飾部は樹脂の成形品、大型の造形部分はFRP。こうした構成は珍しくありません。そしてそれぞれ下地処理が違うのに、仕上がりの色とつやは揃っていなければなりません。
素材が違えば、同じ塗料を同じように吹いても、わずかに見え方が変わります。吸い込みの差、表面の粗さの差、乾き方の差が、最終的な反射に出ます。これを揃えるのは、材料の知識というより、下地をどこまで作り込むかという判断の話です。
発注する側でできる対策はひとつです。 「この什器は複数の素材でできていて、仕上がりを揃えたい」と、最初に伝えることです。これが分かっていれば、素材ごとに下地の工程を変えて設計できます。後から分かると、やり直しになります。

質感の選択肢
什器で使われる主な仕上げを挙げます。
高光沢・鏡面。 強い存在感が出ます。映り込みで空間を広く見せる効果もあります。一方で、下地の粗や面の歪みがそのまま出るため、最も手のかかる仕上げです。指紋も目立ちます。
半つや。 実用と見栄えのバランスが取りやすい領域です。多くの什器がここに落ち着きます。
マット。 落ち着いた印象になり、指紋や細かな傷が目立ちにくくなります。ただし汚れは入り込みやすくなります。
金属調。 樹脂やFRPを金属に見せる仕上げです。重量を増やさずに質感だけ変えられるため、吊り込みや移動のある什器で効きます。鏡のような反射が必要な場合は、銀鏡塗装という選択肢があります。
柄を載せる。 木目調、石目調、カーボン調といった柄を立体に回り込ませる方法として、水圧転写があります。曲面を含む形状でも柄が続きます。
意匠仕上げ。 使い込まれたような風合いを与える、細かな凹凸で質感をつくるなど、既製の塗料の色番号では表せない領域です。
株式会社エムズは、什器について、グローバルブランドが指定する微細な色味や光沢、触れた際の質感まで忠実に再現すること、銀鏡塗装や意匠塗装を組み合わせてブランドの世界観を形にすることを強みとして挙げています。造形から最終仕上げまで社内で完結する体制があるため、図面のない抽象的なイメージ段階からの相談にも対応するとしています。
店舗什器ならではの条件
什器の仕上げは、美術品の仕上げとは違います。店舗には、特有の条件があります。
不特定多数が触れる。 手の脂が常時付着します。アルコールで拭かれることもあります。耐薬品性を見ていない仕上げだと、拭いた跡が残ります。
清掃される。 誰が、何で、どのくらいの頻度で拭くのか。ここが分かっていないと、材料を選べません。
移動する。 什器は意外と動きます。模様替え、イベント、別店舗への転用。角をぶつける前提で考えておく必要があります。
期間が決まっていることがある。 ポップアップや季節のディスプレイは、使用期間が短い代わりに日程が厳しくなります。長期の耐久性より、納期と見栄えが優先されることもあります。
補修できるか。 現場でぶつけたときに、その場で直せる仕上げかどうか。高光沢は美しい反面、部分的な補修が難しい仕上げでもあります。
エムズは、不特定多数が触れる什器には美しさだけでなく耐久性が求められるとして、長期間の使用でも輝きを失わないトップコート技術を挙げています。
発注前に決めておく5つのこと
1. 見られる距離と光の条件。 店外からか、至近距離か。スポットライトは当たるか。ここで、つやの方向と下地にかける手間が決まります。
2. 構成している素材をすべて。 一覧で渡してください。仕上がりを揃える必要があるかどうかも添えます。
3. 色とつやの基準。 色番号だけでは、つやが決まりません。現物のサンプル、あるいは近い質感の製品があれば、それを渡すのが最短です。
4. 清掃方法と使用期間。 何で拭くか、何年使うか、屋外に出るか。材料の選定がここで変わります。
5. 現場での補修の要否。 設置後にぶつける可能性があるか。あるなら、補修しやすい仕上げに寄せておく判断もあります。
よくある質問
Q. 什器の製作から頼めますか、それとも塗装だけですか。
エムズは、造形から特殊塗装までを一貫して引き受ける体制を強みとして挙げており、3Dプリンターによる造形から最終仕上げまで社内で完結するとしています。什器そのものの製作範囲については、形状と構成によって判断が分かれるため、図面や現物をお見せいただいたうえでのご相談になります。
Q. 図面がなく、イメージしかない段階でも相談できますか。
できます。図面のない抽象的なイメージ段階からの相談にも、技術的視点から解決策を提案するとしています。参考になる写真や、近い質感の現物があると話が早く進みます。
Q. 海外ブランドの指定色に合わせられますか。
調色対応として、既存サンプルへのマッチングが挙げられています。現物のサンプルをお預けいただくのが最も確実です。指定の色見本帳がある場合は、その情報もあわせてお渡しください。
Q. 鏡面仕上げは什器に向いていますか。
場所によります。遠目の存在感は圧倒的ですが、指紋と細かな傷が目立ちます。人が頻繁に触れる高さの面には不向きで、手の届かない位置や、ガラス越しの展示部分で効きます。触れる面はつやを落とすなど、面ごとに変える設計が現実的です。
Q. 同じ什器を追加で製作するとき、色は合いますか。
初回の記録が残っていれば、合わせやすくなります。追加の可能性があるなら、最初にその旨を伝えておいてください。色のデータと工程を残しておけるかどうかで、後の再現性が変わります。
まとめ
什器の仕上げは、素材からではなく、見られ方から決まります。距離、光、触れるかどうか。この3つが決まれば、つやの方向と下地にかける手間が決まります。
難しいのは、ひとつの什器に複数の素材が混ざったときです。下地処理は素材ごとに変えなければならないのに、仕上がりは揃っていなければなりません。これは最初に伝えておくだけで、工程の組み方が変わります。
そして店舗には、美術品にはない条件があります。触れられ、拭かれ、移動し、ぶつけられる。清掃方法と使用期間を先に渡せば、それに耐える材料から選べます。
エムズでは、店舗什器の仕上げを、銀鏡塗装や特殊塗装を組み合わせて承っています。イメージだけがある段階でも構いません。お問い合わせからご相談ください。
