ソフトフィール塗装とは|手触りの仕組みと経年ベタつきの対策

製品の印象は、見た目だけで決まりません。スイッチを押した指先、グリップを握った手のひら、パネルに触れた一瞬。そこで「しっとりしている」「安っぽくない」と感じさせられるかどうかが、製品全体の質を決めてしまうことがあります。

しかし、手触りは図面に書きにくいものです。寸法や色なら数値と色番号で伝えられますが、「もう少し柔らかい感じ」「ゴムっぽくはしたくない」といった要望は、言葉のままでは工場に渡せません。

そのギャップを埋める技術のひとつが、ソフトフィール塗装です。塗るだけで、樹脂や金属の表面に柔らかい手触りを与えられます。

ただし、この塗装には知っておくべき弱点があります。条件によっては、数年後に表面がベタついてくるのです。この記事では、仕組みと使いどころに加えて、その弱点をどう避けるかまで含めて整理します。

車載コントロールパネルのボタンに指で触れているところ
目次

ソフトフィール塗装とは

ソフトフィール塗装とは、塗装した面に柔らかい触感を与える塗料を使った塗装のことです。触感塗料、良触感塗装とも呼ばれます。

素材そのものを柔らかくするわけではありません。硬い樹脂や金属の上に、触れたときだけ柔らかく感じる塗膜を一層つくります。だから、製品の剛性や寸法はそのままに、手触りだけを変えられます。

触感には大きく二つの方向があります。指を滑らせたときに抵抗が少ない「さらさら」とした質感と、しっとりとして指が吸い付くような「ゴムに近い」質感です。塗料メーカーはこの二つをタイプとして分けて供給しており、どちら寄りにするかは最初に決める項目になります。

見た目の面では、光沢が抑えられ、マットで落ち着いた印象になります。ソフトフィール塗装が自動車の内装や、携帯機器、小型家電、工具のグリップなどに使われてきたのは、手触りと見た目の両方が同時に手に入るからです。

なぜ柔らかく感じるのか

塗膜が柔らかく感じる仕組みは、大きく二つの要素の組み合わせです。

ひとつは、樹脂そのものの柔軟性です。硬いクリア塗装と違い、ソフトフィール塗料は柔軟性のある樹脂を使います。指で押したときに、わずかに沈む感覚が生まれます。

もうひとつは、表面の微細な凹凸です。柔軟な樹脂に弾力性のあるビーズを混ぜることで、塗膜の表面にごく小さな凹凸ができます。指が面全体ではなく凹凸の頂点だけに触れるため、接触面積が減り、しっとりとした独特の感触になります。この凹凸が光を散乱させるので、同時に艶も落ちます。

この「樹脂の柔らかさ」と「表面の微細構造」の配合比が、触感の正体です。配合を変えればさらさら寄りにもラバー寄りにもできますが、無段階に調整できるわけではなく、使う塗料のタイプの中で詰めていく作業になります。

手触りをつくる他の方法との違い

手触りを変える手段はソフトフィール塗装だけではありません。発注前に、どれが自分の製品に合うかを見ておく価値があります。

手段手触りの傾向向いているもの注意点
ソフトフィール塗装しっとり〜さらさら。柔らかく沈む感覚がある少量・試作・形状が複雑なもの・素材が混在するもの耐薬品性と経年劣化に配慮が必要
シボ(金型のテクスチャー)乾いた質感。柔らかさは出ない同じ形を大量に作るもの金型が必要。試作段階では変更しにくい
エラストマーの二色成形本物のゴムの感触グリップなど握る部分成形と金型の制約が大きい。部分的な適用になる
起毛調(フロック加工)布に近い、起毛した感触内装の意匠部品汚れやすく、清掃が前提の場所には向かない

ソフトフィール塗装の位置づけは、「後工程で、形状を選ばず、少量からでも手触りを足せる」ことにあります。逆に言えば、何万個も同じ形を作るなら、金型側で解決したほうが単価は下がります。

数年後のベタつき——この塗装の最大の弱点

ソフトフィール塗装について調べると、メリットを並べたページは多く見つかりますが、経年変化に正面から触れているものは多くありません。しかし発注する側にとっては、ここがいちばん重要です。

古いソフトフィール塗装が施された製品が、数年経つと表面がベタついてくる。これは製品を長く使っているユーザーからたびたび報告されている現象です。カメラや音響機器のグリップ、古い車の内装などで経験した方もいるはずです。

原因として知られているのが、塗膜の加水分解です。塗料メーカーの技術資料には、従来のソフトフィール塗料は基体樹脂にポリエステルを使用しているため、高温高湿下に長期間置くと塗膜の加水分解により塗膜に粘着性が生じるという問題があった、と明記されています。さらに、紫外線の影響による塗膜劣化も著しかったとされています。

つまり、ベタつきは使い方が悪かったからではなく、材料側の性質として起きていたものです。

重要なのは、これが「解決済みの課題として扱われている」という点です。同じ技術資料では、基体樹脂を変更することで耐加水分解性と耐候性を改善した製品が報告されています。塗料の世代が変われば、挙動も変わります。

したがって、発注する側がやるべきことははっきりしています。「ソフトフィール塗装をお願いします」ではなく、「この使用環境で何年持たせたいか」を伝えることです。高温多湿の環境に置かれるのか、屋外の紫外線を浴びるのか、手の脂に常時さらされるのか。条件を先に出せば、それに耐える樹脂系を選ぶところから設計できます。

もうひとつ、設計段階で意識しておきたい性質があります。塗膜のやわらかさと汚れにくさは相反する性質だということです。柔らかくすればするほど汚れは入り込みやすくなります。どこまで柔らかくするかは、どこまで汚れを許容するかとセットで決める話になります。

質感の異なるサンプルプレートを手に取って比較している様子

エムズの特殊塗装が効く場面

株式会社エムズは、特殊塗装の対応スペックとして、ソフトフィール(しっとり質感)を耐指紋・高硬度クリア・抗菌抗ウイルスなどと並ぶ特殊機能性のひとつに挙げています。自動車関連の制作でも、特殊技術として銀鏡メッキ塗装やカーボン水圧転写と並べてソフトフィール塗装を挙げており、内装パネルを施工対象範囲に含めています。

発注する側から見て、この会社の性格が効いてくるのは次のような場面です。

素材が混在しているとき。対応素材として、FRP、各種樹脂、金属、木材、ガラス、カーボン、発泡体等、全素材と明示されています。ひとつの製品の中で樹脂部品と金属部品が混ざっている、あるいは試作ごとに素材が変わるといった案件では、素材ごとに下地処理を変えて手触りを揃える必要があります。ここは経験がものを言う部分です。

手触りと色を、既存品に合わせたいとき。調色対応として、既存サンプルへのマッチング、および抽象的なイメージからの新規開発の両方が挙げられています。「前のモデルと同じ感じにしてほしい」という要望も、「まだ現物はないがこういう方向」という要望も、入口として成立します。

1点だけ作って確かめたいとき。試作対応として、1点からの小規模試作、および量産に向けた塗装工程の策定支援が挙げられています。手触りは、カタログやデータでは決まりません。実物を握ってみて初めて「これは違う」と分かるものです。1点から試せることは、この分野では実務上の強みになります。

自動車の品質基準が前提になるとき。信頼性管理として、自動車メーカー、ラグジュアリーブランドの厳しい品質基準に準拠すると記載されています。面品質や色彩公差の厳しさが前提の案件では、この経験の有無が後工程の手戻りを左右します。

向いている場面、向いていない場面

向いているのは、次のような製品です。

  • 人が日常的に触れる部分がある(スイッチ、ノブ、グリップ、ハンドル周り、操作パネル)
  • 見た目の質感も同時に落ち着かせたい
  • 数量が少ない、あるいは形状が複雑で金型での対応が現実的でない
  • 試作やコンセプトモデルで、実物の手触りを確かめたい段階にある

一方、次のような条件では別の手段を検討したほうがよい場面があります。

  • アルコールや有機溶剤で頻繁に拭く製品。ソフトフィール塗装は、耐アルコール性や耐有機溶剤性が一般的な塗料ほど高くないという指摘があります
  • 強くこすれ続ける部分。摩耗で塗膜が削れていきます
  • 屋外で紫外線に長時間さらされる部分。使えないわけではありませんが、耐候性を見込んだ材料選定が前提になります
  • 何万個も同じ形状を量産する部品。金型側のシボで解決したほうが単価は下がります

発注するときに決めておくこと

手触りは言葉にしにくい分、やりとりが曖昧なまま進みがちです。最初に次の5つを決めておくと、サンプルのやり直しが減ります。

1. 触感の方向を、言葉と実物の両方で示す。「さらさら寄り」か「しっとり・ラバー寄り」か。手元に目標となる製品があれば、それを渡してしまうのがいちばん早いです。言葉だけで合わせようとすると、往復が増えます。

2. 使用環境を具体的に伝える。想定する使用年数、温度と湿度の範囲、屋内か屋外か、直射日光が当たるか。経年のベタつきを避けられるかどうかは、ここの情報で決まります。

3. 清掃の方法を伝える。アルコールで拭くのか、中性洗剤か、乾拭きか。耐薬品性の要求が変われば、選ぶ材料も変わります。

4. 艶と色の基準を決める。ソフトフィール塗装は原理上マットになりますが、どの程度のマットかには幅があります。色見本と艶の基準サンプルを、どちらも用意しておきます。

5. 評価項目を先に決める。塗装の良し悪しを、何で合格とするか。業界では、不粘着性、耐湿性、耐熱性、冷熱サイクル、耐候性、付着性、引っかき硬度といった項目で評価されます。何を見るかを先に決めておけば、「思っていたのと違う」で揉めることがなくなります。

治具に固定した樹脂部品を検査している技術者

よくある質問

ソフトフィール塗装は、何年くらいで劣化しますか。

一律の年数を示すことはできません。塗料の種類と使用環境で大きく変わるためです。従来型の材料では高温多湿下での加水分解による粘着化が課題とされてきましたが、基体樹脂を変えて耐加水分解性を高めた材料も供給されています。想定する使用年数と環境を先に伝えていただければ、それに合う材料から検討できます。

どんな素材に塗れますか。

エムズでは、FRP、各種樹脂、金属、木材、ガラス、カーボン、発泡体等、全素材を対応素材として挙げています。ただし素材ごとに適した下地処理が異なるため、実際の可否と工程は、素材と形状を見たうえでの判断になります。

1個だけの試作でも依頼できますか。

対応スペックとして、1点からの小規模試作が挙げられています。手触りは実物に触れないと判断できないため、量産前に1点作って確かめる進め方は理にかなっています。量産に向けた塗装工程の策定支援も行っています。

アルコール消毒を頻繁にする製品にも使えますか。

注意が必要です。ソフトフィール塗装は、耐アルコール性や耐有機溶剤性が一般的な塗料ほど高くないという指摘があります。消毒の頻度が高い用途では、清掃方法を最初に伝えたうえで、材料の選定から相談することをおすすめします。抗菌・抗ウイルスの機能性塗装という選択肢もあります。

既存の製品と同じ手触りと色に合わせられますか。

調色対応として、既存サンプルへのマッチングが挙げられています。現物のサンプルをお預けいただくのが最も確実です。現物がなく、イメージだけがある段階からの新規開発にも対応しています。

まとめ

ソフトフィール塗装は、硬い素材の上に柔らかい手触りをつくる技術です。柔軟な樹脂と表面の微細な凹凸の組み合わせで、しっとりとした感触とマットな見た目が同時に手に入ります。後工程で足せるため、形状を選ばず、少量からでも適用できます。

同時に、耐薬品性と経年のベタつきという弱点を持っています。これらは材料の選定と使用環境の共有で避けられる性質のものです。「ソフトフィール塗装をお願いします」だけで発注するのではなく、どこで何年どう使われるのかを先に渡すこと。それが、この塗装でいちばん効く段取りです。

エムズでは、素材を選ばない下地処理と調色、1点からの試作を前提に、特殊塗装として対応しています。内装パネルやHMIデバイスなど自動車関連の案件にも実績があります。手触りの方向が決まりきっていない段階でも構いません。お問い合わせからご相談ください。

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