モックアップの塗装はどこまで必要か|展示会で本物に見せる質感設計

展示会の直前に届いたモックアップを手に取って、「悪くないけれど、製品には見えない」と感じたことはないでしょうか。

形は図面どおり。色も指定どおり。それでも並べてみると、隣のブースにある量産品と明らかに違って見える。原因が塗装なのか造形なのかも分からないまま、会期だけが近づいてくる。

モックアップの見え方を決めているのは、実は塗料の種類ではありません。どこまで作り込むかを最初に決めたかどうかと、下地をどこまで作ったか。この2点です。今回はその2点を軸に、発注側が何を決めておけばいいかを整理します。

目次

モックアップの塗装とは、何をする工程か

モックアップの塗装は、色を乗せる作業ではありません。量産品が持つはずの質感を、まだ量産していない段階で先取りして作る作業です。

量産品の質感は、工法から自然に生まれます。射出成形のシボ、アルミの押し出し目、メッキの映り込み、塗装ラインの均一な膜厚。どれも、大量に作るための設備があって初めて成立するものです。

モックアップには、その設備がありません。1個しかないものに、量産でしか出ないはずの表情を与える。だから塗装で「置き換える」必要があります。

エムズのサービスページでは、この考え方を「質感逆算設計」と呼んでいます。造形と塗装の担当が連携し、最終的な仕上がりから逆算して工程を組む、という進め方です。塗装を最後の仕上げ工程と考えず、造形の段階から仕上がりを前提に設計する。この順序が、モックアップでは効きます。

「本物に見えない」の正体は、たいてい下地

仕上がりが足りないとき、原因は塗料ではなく下地にあることがほとんどです。

塗料は下地の凹凸に沿って乗ります。厚く塗っても凹凸は埋まらず、表面だけが塗られた状態になります。特に光沢のある仕上げでは、光が凹凸に沿って反射するため、塗る前より目立つことすらあります。

3Dプリント出力品の積層痕が典型です。光造形のように積層ピッチが細かい方式でも、痕が完全に消えるわけではありません。鏡面やメタリックのように反射する仕上げにすると、その微細な段差が線として浮かび上がります。

下地を作るというのは、削って埋めて、また削る作業の繰り返しです。地味で時間がかかり、見積書の上では存在感のない工程ですが、ここを省くと何を塗っても結果は同じです。

確認の方法はひとつあります。斜めから光を当てて見ると、残っている谷が見えます。 正面からの目視では分かりません。納品されたモックアップを受け取ったら、一度この見方で確認してみてください。

造形塗装で仕上げた立体物の表面

どこまで作り込むかは「見られ方」で決まる

モックアップの仕様は、用途ではなく見られ方で決めると過不足がなくなります。軸は3つです。

1. どれだけ近くで見られるか

ブースの奥に置いて1m以上離れて見てもらうものと、来場者が手元で覗き込むものでは、必要な精度がまるで違います。遠目なら全体のシルエットと色の印象で成立しますが、近接では合わせ目・エッジ・微細な凹凸がすべて見えます。

2. 触られるか

触られるものは、質感が指に伝わります。見た目が金属調でも、持って軽ければ樹脂だと分かります。ここを埋めたい場合は、重量を調整する、触感そのものをコントロールする塗装を使う、といった手当てが必要になります。エムズの特殊塗装では、ソフトフィールや耐指紋といった機能性の表現にも対応しています。

3. 写真や動画に撮られるか

撮影されるものには、必ず照明が当たります。照明は凹凸と色の両方を露見させます。しかも展示会場の照明とカタログ撮影のライティングでは、同じ色でも見え方が変わります。撮影の予定があるなら、それを最初に伝えてください。 艶の設定が変わります。

この3つを決めずに「展示会用で」とだけ伝えると、作る側は中間を狙うしかありません。結果として、近づくと粗く、遠目には地味、という最も中途半端な仕上がりになりがちです。

量産品の質感を、1個だけで再現する

量産の工法が使えない以上、質感は別の手段で置き換えることになります。代表的な対応を整理します。

量産での質感モックアップでの置き換え
メッキ・鏡面銀鏡塗装(スプレー工法のため、メッキ槽のサイズに縛られない)
成形シボ・テクスチャー特殊テクスチャ塗装
金属素材(アルミ・真鍮など)金属調塗装(クローム・真鍮・錆の表現)
木目・石目水圧転写、ウッド調・石材調の塗装
指定色の再現高精彩調色(既存サンプルのマッチング、新規の色出し)

エムズの造形塗装では、適用技法として銀鏡塗装・水圧転写・特殊テクスチャ塗装・エイジング・高精彩調色を挙げています。対応素材はFRP、UVレジン(3Dプリント品)、ABS、各種金属、木材、発泡体、石材など。素材を選ばず同じ質感へ寄せられることが、モックアップでは効いてきます。

コンセプトモデルは、たいてい複数の素材が混在します。外装は3Dプリント、ベースは木、金具は金属、という構成はごく普通です。仕上げで素材感を揃えなければ、一体の製品には見えません。 素材ごとに下地の作り方を変えたうえで、同じ表情に着地させる。ここが一貫対応の意味です。

サイズは最大550mmまで一体で造形でき、それを超える場合は分割して接合します。接合部も含めて下地処理と塗装を行うため、継ぎ目の分からない一体物として仕上がります。メートル単位の造形にも対応しています。

素材を問わず質感を揃えた造形塗装の例

向いている場面

  • 展示会・発表会のショーモデル:近距離で見られ、撮影もされる。最も作り込みが要る条件です
  • 社内のデザインレビュー:複数の質感案を並べ、量産仕様を決める段階
  • カタログ・プロモーション撮影用のプロップ:量産前に広報物を作る必要があるとき
  • 素材置換の検討:金属を樹脂に置き換えたときの見え方を、意思決定者に実物で見せる場面
  • 1点物のコンセプトモデル:型を起こさずに質感まで作り込む必要があるとき

逆に、形状の確認だけが目的で社内に閉じるものは、塗装まで行わず造形のままで足りることが多いです。工程をかけるかどうかは「社外の人が見るか」で切り分けるのが現実的です。

コンセプトモデルの仕上げ例

発注するときに決めておくこと

次の情報があると、見積りと工程の精度が上がります。

  • 展示の日程(会期の初日。ここから逆算して工程を組みます)
  • 見られ方(距離/触られるか/撮影されるか)
  • 再現したい質感(参考になる実物か画像。言葉だけだと解釈が分かれます)
  • 色の指定方法(既存の色見本があるか、新規に起こすか)
  • 素材と造形方式(すでに出力済みの現物があるか、データからか)
  • サイズ(最大寸法。550mmを超えるかどうかで工程が変わります)
  • 会期後の扱い(保管して再利用するのか、使い切りか)

データはSTL・STEP・OBJ・IGESに対応しています。図面がなくても、手書きのラフや写真イメージからデータを起こすことも可能です。

質感は、最終的には実物で合わせるのが確実です。画面上の色と、ブースの照明下での見え方は一致しません。日程に余裕があるなら、小片のサンプルで質感を確認してから本番に進むのが、やり直しを避ける最短ルートです。

よくある質問

Q. すでに3Dプリントで出力済みです。仕上げだけ頼めますか?

A. 対応できます。素材と造形方式をお知らせください。現物を確認したうえで、下地処理の工程を決めます。

Q. 展示会まで2週間しかありません。間に合いますか?

A. 形状・サイズ・仕上げの内容によります。3Dプリントの造形自体は最短当日から対応していますが、下地処理と塗装には乾燥の待ち時間が入ります。日程が厳しい場合は、何を優先して何を割り切るかを決める必要があるため、まず会期をお知らせください。

Q. 量産品と並べても違いが分からないレベルにできますか?

A. 求める水準と見られ方によります。遠目であれば十分に成立します。近接では、合わせ目やエッジの処理など塗装以外の要素も効いてくるため、どこまで寄せるかを最初に決めておくのが現実的です。

Q. 複数の質感案を比較したいのですが、同じ形状で作れますか?

A. 可能です。同じ形状を複数出力し、それぞれ別の仕上げにすれば、実物で並べて比較できます。型を起こさないため、量産前の段階で選択肢を並べられるのは樹脂+塗装の利点です。

Q. 大きいものも対応できますか?

A. 最大550mmまでは一体で造形します。それを超える場合は分割して接合し、継ぎ目が分からない状態まで仕上げます。

まとめ|コンセプトモデルの質感設計はエムズへ

モックアップが「本物に見えない」とき、原因は塗料の選択ではなく、どこまで作り込むかを決めていないことと、下地が足りていないことにあります。

見られ方——距離、接触、撮影——を先に決めれば、必要な工程は自然に決まります。その前提で下地を作れば、あとは質感をどう置き換えるかという話になります。

エムズでは、3Dプリントによる造形から特殊塗装による仕上げまで、一貫して対応しています。「この形を、量産品に見える質感で1個だけ作りたい」という段階からご相談ください。

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